2024年06月13日

中国、「データ海外移転」の規制を緩和
対内投資激減を防ぐ? 無意味な対応策

中島コラム6

少し前のニュースだが、見出しを読んで苦笑してしまった。「中国、データ海外移転を一部緩和 外資離れに歯止め」というものである。中国経済に影を落としている統計数値の一つが中国に対する外国からの直接投資の激減である。つまり、中国に進出していた海外企業が中国を見捨てつつある。海外企業を中国につなぎとめるにはどうするか。経済浮揚策に取組む政策担当者たちがたどりついたのが「進出企業が中国市場から撤退しているのはデータの海外移転が難しくなったからだ」という結論なのかもしれない。
しかし、「外資離れ」の理由は別のところにある。勘違い、的外れ、とんでもない無意味な対応策である。

中国対内投資額、2年で10分の1

海外からの投資がどのくらい減ったか。中国国家外貨管理局によると、2023年の対内直接投資額は前年比81.7%減の330億ドルと大幅に減少した。1993年(275億ドル)以来の水準に落ち込んだ。22年も大幅に減ったので、ピークの21年に比べると10分の1の低水準で中国から撤退する企業の勢いが止まらない。
そこで冒頭にあるような「データ海外移転規制を一部緩和」となった。

中身は「グローバルな生産や販売活動、貿易などで収集し、個人情報などを含まないデータに限り、データ移転の安全審査を免除する」というものである。「安全審査を免除する」とは、データ提出の手続きを省略できる、というだけの話だ。しかし、中国のデータセンターで行われる処理の中身、データは中国当局に覗き見られていると疑われ、進出した企業はビジネス上の情報セキュリティに不安がある。手続きを省けるのは、多少は手数が減って楽になるかもしれないが、これで撤退を思いとどまる動機になるとは思えない。

「国防動員法」「国家情報法」で企業情報防衛の危機

先端技術をめぐる米中対立が不安、経済成長の鈍化で中国市場の魅力の低下なども撤退の理由として挙げられるが、風向きが変わってきたのは、「国防動員法」(2010年)、「国家情報法」(2017年)の施行である。さらに「一国二制度」だったはずの香港も次々と自由が奪われ、中国化してきた。この2つの法律のリスクが明確になって来た。

前者では戦争など有事の際に国や軍が民間人や施設を軍事動員できる。中国国内居住者だけでなく、海外居住者にも適用される。日本国内には約80万人の中国人の方が住むと言われるが、この方々が意思に反して軍事動員されるかもしれない。まして中国にある日本企業の施設、設備、従業員は企業の事情は考慮されず、軍事動員される恐れがある。

後者では、中国政府の情報収集活動への協力を義務付けられるが、これは有事に限らず平時でも適用される。中国に進出している日本企業の中国人従業員も、情報を収集して政府に提供する義務が生じる。厳しい会社規則に従うように従業員契約しても、「国家の義務」の力の方が強い。従業員が日本にいれば日本法と中国法の違いで争う余地があるが、中国国内では、従業員を企業は守り切れない。守ろうとすれば企業が違法行為を犯したとされ、日本人管理者が中国で拘束されかねない。

追い打ちをかけた「反スパイ法」

さらに進出企業を不安にしているのは、昨年改正された「反スパイ法」だ。

「国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品の窃取、偵察、買収、不法提供、又は国家の職員を策動、誘惑、脅迫、買収し、裏切るようにさせる活動」をスパイ行為としているが、具体的にどのような組織や人物が「スパイ組織及びその代理人」に該当し、「どのような行為がスパイ行為とみなされるか」明らかでなく、「列挙されているもの以外にも様々な行動が幅広くスパイ行為」とみなされ、当局によって「不透明かつ予見不可能な形で解釈される可能性」が懸念されている。

実際、ここ数年、中国で拘束される外国企業関係者が目につくが、その拘束理由がはっきりしない。いつ、どんな罪状で拘束されるか不透明な状況で、リスクを冒して中国国内でビジネスを展開することは難しい。もちろん、中国を大市場として期待して見る企業は、それでも少なくないはずである。個々の中国人が信頼できるので、そこにチャンスも感じられるだろう。しかし、個々人の善意は「国防」「国家安全」「スパイ防止」の国家の事情で踏みにじられるかもしれない。

「データの海外移転の一部規制緩和」くらいでは、とても中国国内でのビジネス環境が改善されるとは思えない。

中島洋の「セキュリティの新常識」コラムは、こちら

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